コミティア90詳細

私はバスを降りたら新宿の西口の近くだった。いつも使っている夜行バスは前々回までは、つまり五月のコミティアのあったゴールデンウィークのときは降車場所は東京→新宿→横浜だったけど、前回からはつまり8月からは、横浜東京新宿の順になっていた。前の順番だと東京に早く着きすぎたし東京駅の周辺にはちょうどいい時間をつぶす場所がなかったから少し不便でも新宿まで余計に乗っていたけど新しいのは今までより1時間くらい遅れるからもう東京駅で降りてもいいかもしれないとぼんやり考えていたらちょうど7時で新宿西口のヨドバシカメラの近くのロッテリアが開店したのでそこで時間をつぶそうと思った。その日の二番目の客になった。ハムのハンバーガーのセットを頼んで飲み物はホットコーヒー(深炒り)にした。

移動には文庫本を常に携帯するからその日は保坂和志の「季節の記憶」を持っていたけど夜行バスであまり眠れてなくて頭がぼんやりとしていたからドラクエ9が発売されてから持ち歩くようになったニンテンドーDSの「光の4戦士」をやることにした。光の4戦士スクエニのゲームで吉田明彦の描く可愛いキャラクターが魅力的なRPGでシナリオというかせりふが時々面白くて勉強になった(せりふは時々しかないものが大体全部面白い)。コーヒーが冷たくなっていたので時計を見たら8時でちょうどいい時間になったと思った。

いつもは新宿から東京駅に出て、りんかい線ゆりかもめかバスで行くことになっていたけど、新宿駅南口のJRの路線図をよく見たら、新宿からりんかい線に乗り入れて乗り換えなしで国際展示場にいく電車があった。りんかい線国際展示場駅前のサンクスでじゃがりことバランス食品を買って並木道を歩いているときに、今年卒業した学校には卒業式以来行ってないけどこのビックサイトにはそれ以来4度来たと思った。学生時代よく会っていた友達とは一度もあってないと思った。

西ホールに着いたときは9時でサークルの入場が始まっていたけど列が滞っていたので少しはなれたところで、列とピクシブマーケットの会場を交互に見ていた。ピクシブマーケットは外の吹き抜けみたいなところに場所を作っていて、展示スペースにはパーテーションが立っていて面白かった。外から見ると壁サークルの裏がみれたので勉強になった。すぐに列は解消されたのでホールに入って自分のスペースにいくといつもどおりチラシがあって悲しくなった。私はチラシがあると、名古屋にある印刷所のくりえい社のチラシ以外は全部捨てるので悲しくなったのだけど、配る人が悪いのか捨てる私が悪いのかわからなかった。今回はチラシにまぎれてクリアファイルが二枚入っていたから、クリアファイルが欲しかったのでそれだけもらって今日貰ったペーパーはこれに入れようと思った。それでチラシを捨てに行ったらゴミ捨て係のおばちゃんがチラシとファイルの分別に手を焼いているみたいで、同じものでも人によっていろいろな影響を受けると考えた。

それで構成机の上に布を引いてリュックから封筒を取り出してそこから本を取り出す。並べ方については決まったやり方があるわけではないので新刊を中心に適宜適当に配置していく。机の通路側の大体真ん中に新刊を置いてその左に「絵画教室」右に「明るい教室」。明るい教室の手前に「ファントムペイン」、その左、新刊の手前に「大人のたしなみ」。「大人のたしなみ」だけB4なので縦だと机から大きくはみ出してしまったので横にして置く。これが机全体の右寄りにあって、左側にはT永さんから預かってきたネタ同人誌を4冊縦に階段状に並べ、その手前にペーパーを置いた。本だけでなく値札のような、紙をL字に折り曲げ自立するようにしたものもあって、そのことも考えて配置しなければならず結局整然と配置することは出来なかった。

並べ終わっても一般開場まで1時間半くらいあって手持ち無沙汰だったので、自分のスペースの周りをブラブラした。しかしそんなことで1時間半もつぶせるはずはなかった。

2年も参加していると知り合いも増えるもので、すぐ後ろの背を向けたスペースのさらに向かいのスペースに席を構えたT屋さんや有名サークルで私もいつも新刊を楽しみにしているTくさのM島さんやコミティア外でも少なからぬ付き合いのあるKミ☆TきのIさんなどに挨拶をする。T屋さんからは新刊を頂きました。T屋さんには愛知県サークルとして、名古屋コミティアにもぜひ参加するようにと半ば命令するかのような口調で薦めもしました。M島さんは一度行ったときにはまだ会場にいなかったので、いつもの遅刻かと思ったけどしばらくしてからたずねたら、手馴れてはいるけど丁寧な手つきで紙を折り、重ね、製本していた。

M島さんは、物事が順調なときには何か落とし穴があると言った。コピー誌用のコピーを一枚忘れたといってこれからコピーしにいくと言いながら紙を折り続けていた。一枚ないほうが漫画として面白くなるかもしれないと冷静に考察していて一緒にいた知り合いに早くコピーをしてくるように助言されていた。僕はこれ以上ここにいるとお邪魔になると思って、売り切れそうになったら取り置きしておいてくださいとお願いしてそっとスペースを後にした。

自分のスペースの隣は大学の漫研だったらしくて大人数でにぎやかだった。暇なときはちょっと話を盗み聞きとかしながら、落ち着かない時間をすごしたけど、気付いたら11時になっていてコミティア90がはじまったみたいだった。僕は周りがするのを見習って拍手をした。

それで開催されたからといってすぐ人が来るわけではないことはわかっていたので、だらりとパイプいすに背をもたせかけた。なんとなく脱力した気分だった。15分くらいか30分くらいか時計を見ないので定かではなかったけど、ひょいっといった感じで、机の前で足を止めた人はコミティアのスタッフのしるしの腕章のようなものをつけていた。ネームプレートだったかもしれない。その方はいつも私の本を読んでいてくれる方なので、あ今日も来てくれたんだなと思った。

新刊の「雪の下の叙景」はぼつぼつ売れて、人通りは多いように感じたけど売れ行きとしてはいつもと大差なくて、忙しくもなく暇でもなかった。私は朝サンクスで買ったじゃがりことバランス栄養食品をいつ食べるかころあいを見計らっていると、向いの島の角のほうから数少ない女性の常連さんのSさんがやってきた。サークルスペースは島の、島というのは並べられた構成机のまとまりの事で、端っこの部分は配置によってあったりなかったりして、誕生日席などと呼ばれていたけど、この日のコミティアにはなくて、誕生日席じゃないただの端っこの近くで向いの島の角が良く見えたのでそこからやってくるSさんが見えて、Sさんが来てくれるとなんとなく嬉しい。私が同人活動を始めたかなり早い段階から買ってくれている数少ない人でもあったし、Sさんがネット上に載せていた同人誌の感想文を読んでTくさやMこを知った。

Sさんが去ったあとわりとすぐにZ物さんがやってきた。Z物さんも毎回私の本のを読んでくれている方で毎回感想を教えてくれるのでとても励みになっています。Z物さんはいつも本を品定めするようにさっと目を通す。くいっ、くいっとページをめくるリズムが独特でいつも緊張する。私がコミティアで一番苦手な状況は、同時に二人以上に本を読まれているときだけど、そのときコミティアスタッフで唯一の知り合いのS山さんがやってきた。前回もZ物さんとS山さんはほぼ同じ時間に来ているのでいろいろ想像したけどたぶん偶然だろうと思った。Sさんは保坂和志なども読まれる方で「未明の闘争」の話も出来るかと思ったけどまだ読んでいないらしいので読むように薦めておいた。S山さんは回を重ねるごとに忙しそうになる。

それからいつもスケブをもってきてくれる方がいて、今回もスケブを頼んでくれたので少し嬉しかった。本当に毎回スケブを持ってきてくれていつもおんなじキャラクターをリクエストしてくれる方だった。今回はスケブが新しくなっていてしかもおろしたての真っ白な状態だった。前回まではケント紙の独特のスケッチブックで今回は画用紙の凹凸のあるタイプで描きやすかった。私の漫画はキャラクターが立っているタイプではないと思うけど、キャラクターに思い入れを持ってくれる人がいると思うととても不思議な感じもするけど嬉しい。

絵を描いたらちょうど1時くらいでトイレに行ってじゃがりこを食べた。いつものことだけど1時を過ぎるとスペースの前で立ち止まる人はぐっと減る。

そういう時間にMこのY田さんが訪ねてきて私の本について熱く語っていった。コミティアに参加しだしてたぶん最も熱い時間をすごしたのだけど、要点は長い話(物語)かけということだった。私の漫画は物語よりも場の臨場感というか、キャラクターがいる空間がキャラクターの目線や動きや会話で立ち上がっていくそのダイナミズムというかメカニズムに興味を持って書かれているものが多い。Y田さんはその考えに理解を示しつつも、物語要素の強い作品に魅力を感じていると控えめに打ち明けてくれた。あげてくれたその作品は私も思い入れがあるものであって嬉しかった。そういう書き方(ぐだぐだ書く書き方)と物語を語ることが完全に齟齬をきたすわけではないけど、20や30ページで一回分の話を書くいまのシステムでは物語以前の断片のようなものの切り出し以上のものはかけなくて、それなら続き物でやれば言いという向きもあるかもしれなくてそれはそうなんだけど一回のイベントごとに3ヶ月あいてしまうということに抵抗があって、中途半端なところで3ヶ月お預けを食らうのは私は嫌だと思った。だからやるなら何回か休んで一気に完成したものを見せたいけど、そんなことをしても付いてきてくれる人はいないだろう。

それでようやく自分のスペースを空けてもたぶん大丈夫そうだったから、同人誌を買いに行くのだけど、今回はほとんど下調べしていなかったのでいつも買っているところをたずねて行った。ビックサイトに行った事のない人はビックサイトというと逆三角形の未来的なビルをイメージするのかもしれないけどイベントが行われるのはあのビルではなくてそのそばにある四角い建物で、東ホールと西ホールに分かれていて今回は西1ホールで行われていて、西1ホールは鍵括弧の形(「)をしたホールでこの垂直方向の線の真ん中あたりが私のスペースだったからまずは下半分に配置されていたスペースを回り(TくさやKみ☆Tきさんがいた)、その後上のサークルのほうに行くのだけどほとんどチェックサークルはなかったからさっと済ませた。

それで大体2時くらいになればもうほとんど机の前に立ち止まる人はいないので、ちょっと気まぐれで席を離れたりトイレとかいったりしても時間はなかなか過ぎない。きり上げて帰ればいいと考える向きもあるにはあるが、途中気になったけど素通りしたけど、最後になってもう一度見に来るということが結構あるので油断は出来ない。それに早く切り上げたって夜行バスまで時間をつぶすだけなんだからあわてる必要もない。3時も過ぎてもう終わりだなと考えていたら、案の定最後に少し見てもらえて嬉しかった。

3時半になればビックサイトには閉会の拍手が鳴り響く。私も始まりの拍手と同じようにそっと拍手をする。席には一枚ずつアンケートが配られるのでそれに記入する。一日の印象に残ったことを書く欄があるけど、まともに書いたことがない。やる気がないときは大きすぎるし、書こうと思ったら小さすぎる。
というか印象に残ることなんてあんまり起こらない、のんびりしたのがコミティアというものだ。

夜行バス派の私はここから夜の11時過ぎまでの7時間がいつもなにもすることがなくてつまらない時間だ。展覧会なども見たいと思うものがあっても6時まででしまってしまう美術館やギャラリーがほとんどなのでまともに見れないし、結局いつも秋葉原や池袋や新宿をブラブラすることになる。