「ソフトアンドハード」佐々木敦

SOFT&HARD

SOFT&HARD

 ずいぶん更新があいてしまったが、その間、読書はずっと続けていた…なんて書ければ格好いいのだけど、実際は読書量も激減していた。少ない読書時間をやりくりして読んでいたのがこの本だ。
 「批評家」佐々木敦という人について僕が知ることになったのがいつだったのか思い出せないのだが、スタジオボイスとか、クイックジャパンとかで偶然見かけて読む程度だったと思うのだが、決定的に彼のファンを自認するようになったのはやはり、というか当然というか文化系トークラジオLifeを聞いたことで、彼の明晰でありながら、親しみのある話し方に魅了されたわけで、この本は活字でもその体験が再び味わえる、Lifeリスナー必読な本なわけだが、ラジオを聴かない人もだれだってこんなブログを読んでいる暇があったらさっさとウィンドウを閉じてこの重厚な本を紐解くべきだろう。音楽について、映画について、文学について、80年代、90年代、ゼロ年代を通して考え続ける佐々木敦の歴史の一端を感じることができる。

「犬はどこだ」米澤穂信

犬はどこだ (ミステリ・フロンティア)

犬はどこだ (ミステリ・フロンティア)

 米澤穂信はなぜ、こうも人の心をかき乱すようなラストを用意するのか。米澤穂信の小説は最高の媚薬にして、耐えられないほど苦い。

「明け方の猫」保坂和志

明け方の猫

明け方の猫

 この本に収録されているデビュー前に書かれた中篇「揺籃」をよむと、今、保坂がやっている小説論の仕事がすっと理解しやすくなった気がした。

「ハル、ハル、ハル」古川日出男

ハル、ハル、ハル

ハル、ハル、ハル

 短編集。古川はあとがきで「小説のリアリティが、虚構としての世間を咬む」というようなこと言っている。この言葉自体は多分にパフォーマティブな要素が含まれているのだろうが、この小説集にあつめられた小説はたしかに現実の感覚では捕らえきれない何かを抱えているように感じる。

「天帝のはしたなき果実」古野まほろ

天帝のはしたなき果実 (講談社ノベルス)

天帝のはしたなき果実 (講談社ノベルス)

 第35回メフィスト賞受賞作。一冊丸ごとノイズのかたまりみたいな、いろんな意味で大変な作品だ。ミステリーであるからいろんなレベルの謎がたくさん出てくるけど、一番のそれは作者である「古野まほろ」その人ではないだろうか。