「アラビアの夜の種族」古川日出男

アラビアの夜の種族 III (角川文庫)

アラビアの夜の種族 III (角川文庫)

 文庫版3巻合わせて大体1000ページ。これを長いと感じるかどうかというと、読み始めるまでは確かに大変だけど、読み始めて50ページくらいを過ぎれば後はあっという間に読み終わる(とはいえそれは気分の問題で、実際はページ数に見合った時間がかかる。平行して何冊か同時に本を読む癖があるのだが、それにしても一冊の本で読了に半月もかかったのは阿部和重の「シンセミア」以来くらいかもしれない)。はじめの50ページくらいはややこしい時代背景が長々と語られて、2、3年まえに一度読もうとしたときはそこで退屈になって読むのを止めた。
 それで、読んでみればわかるんだけど、1000ページが長いのかというとそんなことはなくて、内容に対してみてみるとむしろ短いと感じる。普通の人が100歩で通過する道を、あえて回り道を探して、かつ10歩くらいで通過しようとするのが古川日出男という小説家だ。
 この書物(この本にはこの言い方がよく似合う)のいったいどこに魅力を感じているのか説明しようとすると、実はよくわからない。メタ物語的な重層構造の面白さ(なんだあの注釈は!)?徹頭徹尾馬鹿っぽく書かれた登場人物?歴史ファンタジーとしての世界観?まぁ確かにどれも魅力的なんだけどそう言ってしまうと大切な何かが隠されてしまう感じがする。それがどういうものか、見切り発車でも感想を書けば見えてくるかなと思ったけど、結局まったく全然おぼろげにもわからない。